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東京高等裁判所 昭和52年(ツ)5号 判決

上告人 今本ヨシ

右訴訟代理人弁護士 我妻源二郎

同 正田昌孝

同 浜田正夫

被上告人 田村貞子

右訴訟代理人弁護士 岡村了一

同 前嶋繁雄

同 鈴木勝利

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

一  上告理由第一、二点について

上告人が昭和三〇年四月二五日被上告人の先代田村アイと本件建物賃貸借公正証書を作成するに際し、本件建物の三階部分の増築につき事前の承諾を得た旨の上告人の主張について、これを認めるに足りる証拠がないとした原審の判断及び上告人が甘栗販売店用に改築した本件建物一階店舗の一部分を訴外増田太三に使用させたことは右部分の無断転貸にあたるものと認められるとした原審の認定は、いずれも挙示の証拠関係に照らし正当として是認することができ、右の点に関し原判決に所論の違法は認められない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

二  同第三点について

原審が挙示の証拠により適法に確定した事実関係に基づき、本件賃貸借において被上告人・上告人間の信頼関係がゆらいでいるとした判断は正当として首肯することができ、この点に関し原判決に所論の違法は存しない。そして、右の事情のほか、原審の確定した諸般の事情のもとにおいては、被上告人が上告人に対し立退料として金二四二万三五九二円を提供する旨申し出て、右金員の支払と引換えに本件建物の明渡を求めたことをもって、被上告人の解約申入につき正当事由が具備されたとする原審の判断は相当である。所論は、右立退料の金額が過少であるともいうが、右金員の提供は、それのみで正当事由の根拠となるものではなく、他の諸般の事情と総合考慮され、相互に補充しあって正当事由の判断の基礎となるものであるから、解約申入が金員の提供を伴うことによりはじめて正当事由を具備することになるものと判断される場合であっても、右金員が明渡によって借家人の被るべき損失のすべてを補償するに足りるもの、例えば、本件において所論のように本件建物と同程度の条件を備えた建物を新たに賃借するのに必要な金額でなければならない理由はない。原判決の前記判断に所論の違法は認められず、論旨は採用することができない。

三  よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 室伏壮一郎 裁判官 横山長 河本誠之)

〈以下省略〉

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